2013年5月21日(火)19:00−21:00武蔵野プレイスにて、総参加者数25名で第1回研究会を実施しました。
話題提供
<今回のテーマ>
「学校におけるキャリア教育について」
<話題提供>
文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課指導調査係専門職
大久保友直さん
■キャリア教育が求められる背景とは?
学習指導要領が変わり「生きる力」が求められるとよく言われています。「生きる力」とは、「確かな学力」「豊かな人間性」「健康」「体力」ということ。いまの子どもたちが置かれている状況は、情報化・グローバル化、少子高齢化、消費社会などといわれるように様々な大きな変化が急速に生じている。また、子ども・若者の意識も変容してきているなど、様々な課題に対応するため、学習指導要領の改訂につながってきているのです。そして、「生きる力」は、キャリア教育が担うところが大きいといえます。
さて、若者(15歳~24歳)の失業率・非正規雇用率の高さがよく話題になります。だからキャリア教育が必要、と言われますが、そこにも誤解が生じています。若者が社会に溶け込むようにキャリア教育をやっていかないといけないと、よく言われますが、これは若者だけのせいではありません。受け入れる産業界自体が正社員の採用人数を少なくしていたりするのです。また、景気がよくなったらキャリア教育が要らなくなるというわけではないですよね。教育は、国家100年の計ともいうが、長いスパンを見て取り組む必要があります。一方で、高校では、進学校の子たちにも、同じくキャリア教育の機会を提供する必要があるということ。どうやって大学を選択するかということは、将来自分が自立をすることをイメージしておく必要がある。就職する直前だけキャリア教育が必要、というわけではないのです。
■児童生徒の現状を確認 ~いろいろな角度から見てみると・・・
今の子どもは「悩んでいない」とよく言われますが、そんなことはありません。中学生の悩みを見てみると、最も多い悩みの一つは勉強や進学のこと。これは10年前よりも増えています。また、高校生も進路を考えるとき「自分がどうなってしまうのか不安である」という悩みを抱えている。内閣府などによる、小・中・高校生の「将来就きたい仕事」についての調査がありますが、中高生になり将来の仕事を具体的に選択するステップになればなるほど、「わからない」という子が増えていく傾向が見られます。こうした悩みに教育がきちんと応えられているかという点はとても重要です。
国際的な学習到達度調査PISA(Programme for International Student Assessment 経済協力開発機構OECDが3年に一回高校生を対象に実施している調査http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/pisa/)からも傾向がわかります。日本は、数学的リテラシー・科学的リテラシーの成績は先進国の中でもトップレベルと言われています。しかし、数学・理科に対する自信指標、興味指標、数学の学習と自らの将来の関係把握指標などの項目は、日本は最下位に近いのです。日本の子どもたちは、成績はよくても、なんのために勉強しているのかわからない・つまらない、と思っているということ。問題は根深いものがあります。一方で、「趣味として読書をする生徒の割合」という指標で日本は65カ国中、下から6番目。読書を趣味として楽しむ子どもたちが少ないということです。とくにノンフィクション・新聞といった事実に基づいた論理性の高い文章を読むことを好まないという傾向が見えます。
では、高校生の学力・学習意欲を見てみます。勉強する層としない層がはっきりと二極化している状態があるという問題も指摘されています。将来役立つと思わないが大学に入るために勉強をする。結果的に、大学入学後、「卒業後の進路」という「出口」で慌てているということがいえます。
また、大学1年生で「大学卒業後の進路をまだ何も考えていない」層が36.6%。また、大学4年生にきいた「大学卒業後の進路を考え始めた時期」は「大学3年生ごろ」というのが47.2%、という調査結果もあります。職業を意識した時期が遅い人ほど「進学するのはすぐ社会に出るのが不安だから」「自由な時間を得たいから」「周囲の人が皆行くから」という消極的な理由で大学に進学する傾向が見られます。さらに、別の調査をみると、学生相談窓口が受けた大学生の悩みの一位は、対人関係です。そして、新規高卒就職者が離職する理由の21.4%は職場の人間関係。若者は対人関係に課題を抱えており、高校でも大学でも苦手なまま「出口」に向かっていっていることがわかります。
○まとめると・・・○ ◇産業構造や就業構造の急激な変化、 子ども・若者の変化等、社会全体を通じた構造的問題が存在。 ◇学校から社会・職業への移行が円滑に行われていない。 ◇「社会的・職業的自立」に向けて様々な課題が見られる。 ◇学校での生活や学びに対する目的意識の希薄さが見られる。 (子どもたちにとっても・先生にとっても・ 日本社会全体にとっても不幸なことである) |
こうした中、文部科学省では、キャリア教育に力を入れて取り組んでおります。2011年1月の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」に基づき、各種施策を実施しています。また、教育振興基本計画(今後5年間総合的かつ計画的に取り組むべき施策)においても、キャリア教育に取り組むことが明記されています。具体的には、「子どもたちの勤労観や社会性を養い、将来の職業や生き方について自覚に資するよう、経済団体、PTA、NPOなどの協力を得て、関係府省の連携により小学校段階からのキャリア教育を推進する」とされており、これを受け、各教育委員会・学校も取組を強化してきています。
※中央教育審議会答申等についてはこちら※
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1312379.htm
■「キャリア教育」とは何を指すのか?
実は、キャリア教育とは、まるで新しいことではないのです。「進路指導」という言葉がありますね。ただ、進路指導=進学のための行き先選択というイメージが強く、小学校では行われるイメージがない。実は、それでは進路指導の本来の意義が活きていないのです。そのため、あらためて「キャリア教育」という言葉で「ひとりひとりの社会的・職業的自立に向けて、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義して全学校種で取り組んでいるのです。
では、キャリア教育とはどういうものなのか。これはよく誤解のある「職業教育」ではありません。また、「勤労観・職業観」のみを育てるものない。「基盤となる能力や態度を育てる」ことも必要なのです。生涯にわたる必要な能力や態度を育成すること、「基礎的・汎用的能力」と定義されています。具体的には「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つ(詳細は文部科学省HP等を参照)。こうした能力を、教科を通じて身につけることも非常に大切なことなのです。教科・領域・生活指導は基礎練習を積んでいるようなもの。子どもたちは練習をすると練習試合をしたくなる。これを職場体験・社会人講和等を通じて、将来にどうつながっているのかを理解し、自分に何が足らないかを自覚し、戻ってきてまた勉強をする。学力とキャリア教育は両輪なのです。そして、キャリア教育を実践するためには、先生だけではなく、地域や民間企業との協働が不可欠なのです。
■地域・企業に求められることとは
しかし、日本商工会議所「商工会議所キャリア教育活動白書(平成25年3月)」を見てみると、企業が感じる「学校と協働できない理由・職場体験の課題」について、52%が「学校からの依頼がないから学校と協働できない」をあげています。一方、学校が感じる「職場体験にあたっての課題」は「受け入れ先の開拓や連絡」。学校と地域社会がすれ違っていることがわかります。一方で、全国の商工会議所のキャリア教育への協力の実施率は72%。H23年度から一気に増えています。地道ながら、地域社会の皆様によるキャリア教育支援が広がってきている現状がよくわかります。
※日本商工会議所「商工会議所キャリア教育活動白書」はこちら※
http://www.jcci.or.jp/news/jcci-news/2013/0430150427.html
■小・中・高校の現状 ~最新の調査結果より
最後に、3月に第一次報告書が出た最新の調査「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」(国立教育政策研究所)からわかる小・中・高における現状についてご紹介します。
※調査の詳細についてはこちら※
http://www.nier.go.jp/shido/centerhp/career_jittaityousa/career-report.htm
調査は7年に1回行われる大がかりな調査です。7年前とどう変わったのか。
まず、キャリア教育の推進が求められていることを、知らなかった先生が大幅に減っています。キャリア教育を推進しないといけないということは、もう先生は知っているという状態と言えます。一方で、保護者の認知度は低いことが課題です。また、キャリア教育の全体計画の作成状況についての調査では、中学校・高校では7−8割の学校が全体計画を作っています。ただし、児童生徒の実態・保護者地域の実態願い・教師の願いが含まれている割合が少ないところが課題。また、キャリア教育の評価について踏み込んで実施されている学校がまだまだ少ないところも課題です。また、年間の指導計画の作成について、小学校はまだ50%弱。教科におけるキャリア教育には3割くらいしか踏み込んでなされていないという結果も出ています。小学校におけるキャリアカウンセリングが重視されていないという点も課題です。中学校の職場体験活動・高校の就業体験・インターンシップといった体験活動は、保護者調査からは有意義な学習だと評価されており、卒業者にとっても有意義だったと感じられていますが、一方で、体験活動の実施がまだ少ないという調査結果もでています。
○まとめ○ ◆充実したキャリア教育の指導計画を有する学校ほど、 子どもの学習意欲の向上がみられる 「児童・生徒の実態や学校の特色、地域の実態を反映させていること」 「児童・生徒が具体的な目標を立てること」 「発達段階の応じたキャリア教育の実践が行われるようにすること」 「学校のキャリア教育で育てる力と基礎的・汎用的能力との関連を 整理すること」「様々な教科や領域・行事等、教育課程全体を通した キャリア教育が行われるようにすること」・・・など。 |
個別の学校種についてみていきましょう。
小学校については、職業に関する知る学習は、課題対応能力の向上を促す、ということがいえます。たとえば、児童調査では「調べたいことや知りたいことがあるとき、進んで資料や情報を集めたり人にたずねたりしている」という項目について、いろいろな仕事を知る学習をしてきた子としてきていない子で、そうした行動をするかどうかに差が見られます。
中学校では、保護者の幅広い期待に応えうる実践の充実が必要であるということがいえます。担任調査で「先生が困ったこと」として3番目にあがっているのが「保護者のキャリア教育に対する期待が進路先の選択やその合格可能性に偏っている」(33.3%)という項目。一方で保護者調査では、どのような学習内容を期待するかといった質問には「学ぶことや働くことの意義を考えさせる学習」をいちばんしてほしいと回答しています。「希望する高等学校に合格するための学習」と同じくらいの重さで求められているのです。中学校ではもう1点。職場体験の充実は学習意欲の向上を促すという点。6日以上職場体験に取り組んでいる学校では、管理職から見た生徒の学習意欲は伸びていると評価されている。2−3日で終わってしまうのではなく「慣れて、自分自身で工夫するまで」体験することで、中学生自身が考え・気づくことにつながるのです。
高等学校については、学科による大きな差異がある、という点が課題と考えられます。職業に関する専門学科に進学する子は、社会に出る準備をしているため、意欲・意識が高い。その一方で、普通科におけるキャリア教育の充実が課題です。インターンシップの参加率も、本当に少ない。社会と接する機会がないまま、大学を選択し、進学していくことになります。長期的視点から将来を展望した指導の充実も課題にあげられています。
☆近年の具体的推進施策についてのご紹介☆
◇文部科学省「キャリア教育」ホームページ
→ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/
◇「地域キャリア教育支援協議会設置促進事業」
◇キャリア教育実践の手引きの作成・配布
→ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1312372.htm
◇教員研修用動画の配信
→ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1315412.htm
◇キャリア教育推進連携シンポジウム・キャリア教育推進連携表彰
→ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/career/detail/1312382.htm
◇子どもと社会の架け橋となるポータルサイト
ワールドカフェ
後半はワールドカフェ形式で、参加されている皆さん
同士の情報交換を行いました。
セッションの内容は次のとおり。
セッション①
テーマは「今日、参加して発見したこと」
↓ ↓
「旅人」が他の島へ移動してセッション②
テーマは
「こうなったらいいな・できたらいいな・あったらいいな」
制約条件はいっさいナシ!
「楽天家になろう」でアイデアを考えてみました。
↓ ↓
最後に、全員で他の島の模造紙をみて共有。
もとの島に戻り、気づきのシェア。
それぞれの島で出てきたアイデアとは・・・
参加されたみなさんより
「キャリア教育に意志を持った大人が集まれば何でもできるのでは、という可能性を強く感じました。また教育現場の変化なども知ることができ、とても有意義な時間でした。」(リクルートライフスタイル 木下さん)
「同じ志を持つ方との出逢いがうれしかったです。社内では1人で担当しているので、同じ悩みを共有し、一緒に課題を解決していけたらと思います。」(ハーゲンダッツ 澤村さん)
「実際にこれだけの方と直接お話ができて、よかったです。刺激的です!」(クリエイター M.Fさん)
「志、理念、問題意識を持っている方々の集団なので、共感・共有が非常にしやすい。文科省の現実的なデータに基づき、課題抽出や今後の必要分野について考える糸口ができて、流れ的に良かった」(モチベーション研究 久保田さん)
「ワールドカフェで様々な方が仕事・プライベートでキャリア教育に関わる活動をされていること、そこから様々なアイデアが生まれていることを感じました。楽観的な発想で、もっと子どもたちのためになる活動がどんどん実現されていくと良いと思いました。」(Y.Rさん)
「いろんな人のいろんなアイデアがおもしろかったです。やれることはいっぱいあると思いました。」
次回もお楽しみに!