第2回研究会開催レポート(2013/7/24)

2013年7月24日(水)ちよだプラットフォームスクエアにて、第2回研究会を開催しました。

(参加者数20名)

 

話題提供

 第2回研究会は、「企業の持つ“教育資源”をさがす」をテーマに、ソニー生命保険株式会社 濱崎祐一さんに話題提供をいただきました。第3回キャリア教育アワードで優秀賞を受賞された「ライフプランニング授業」。濱崎さんからは、どのような資源を教育に活用しているのか、また、企業の価値を高める為の活動、社内・外とどのようなコミュニケーションをとってきたのか、など、プログラムの「裏側」をお話しいただきました。

「実現したい夢を簡単にあきらめていいの?」〜ライフプランニング授業で伝えたいメッセージ〜

 当社は、「ライフプランニング」をコアバリューのひとつと考えています。生命保険会社なので、最終的にはお客様に適切な生命保険を選んでいただき、安心して暮らしていただくことが価値。そこに行き着くには、「ライフプランニング」という考え方が大切だと思っています。「あなたはどう生きるんですか」。実はライフプランナーはお金のことだけでなく、お客様にこんなことまで問いかけています。

 しかし、それをそのまま教育の中に持ち込むのはむずかしい部分もあります。そこで工夫した授業のポイントとしては2つ。ひとつは仮想の家族にすることで、自分自身のことを話さなくても体験できるということ。もうひとつはグループワーク形式で全員参加し、いろいろな人が自分の考えを発言できるようにしたこと。さらに、毎日お客様に向き合って具体的な事例を体験しているライフプランナーが聞いたリアルな話をすることで、単なるゲームではなく、自分の人生とむすびつけることができる、そんな良さもあると考えています。

 基本プログラムは2コマ(2時間)で構成されています。

    ※授業の詳細については→ http://www.sonylife.co.jp/volunteer/lp/index.html

 実際の生活とは違う世界なので、ゲーム的に、仮想の家族が楽しく過ごせるとしたら?をとにかく楽しく考えるようにしていること。しかし、シミュレーションの結果、赤字になることがわかる。そこから「対策」を考えていくのですが、子どもたちからはネガティブな意見が出てきます。そこでライフプランナーから問いかけます。

 「実現したい夢を、そんなに簡単にあきらめていいの?」 

そうなると、積極的な解決策が出てくるようになります。赤字だった収支がみるみる改善されていく結果をみて、いろいろ工夫したらいけるんだな、という前向きな気持ちになることを、我々はとても大切にしています。

 授業を通して伝えたいことは、まず、夢を描くことは大事ということ。描くだけでなくかなえるものなので、そのためにまずは自分らしい夢をもってほしい。もてたのであれば、計画を立てよう。何か具体的な行動・努力をしよう。そのときに、自分だけの力では成り立たないので、まわりの人への感謝の気持ちを持とうね。子どもたちからの感想からも、「自分の夢をしっかり持ちたい」「計画を立てるって大事」など前向きな気持ちがわいて来ることを実感していますし、おうちの方への感謝の言葉もよく聞かれます。先生がたからもライフプランナーという専門職が関わることで、人生に対しての具体的な切り口がわかったのではないか、という声をいただいています。

 我々はライフプランニングのプロではありますが、教育のプロではありません。スタンダードのプログラムはありますが、先生方のご意見を聞きながら、アレンジしていくことを大事にしようとしています。オプションメニューを追加したり、先生方に模擬授業を体験していただいたり。先生の担う責任・役割と、我々が担う責任・役割を明確化していき、協力することで、授業当日をいかに有効な学びの場にするかを工夫しています。現在、おかげさまで、年間100校くらい実施ができていますし、今年はもう少し、実施校数を伸ばせたらと考えています。

「われわれは何のためにやるのか?」〜様々なライフプランナーの想いとこれまで〜

 この授業をはじめたのは長崎でした。高校の先生にライフプランニングをし、保険にご加入いただいたときのこと。先生が「こういうことって子どもたちにできたらいいですよね」とポロっとおっしゃったのがきっかけでした。ソニー生命はライフプランニングを保険設計のベースとして考えており、とても大切にしています。それを行うライフプランナーや、サポートする我々本社社員の根幹となるものを「ライフプランナーバリュー」と名付け、コーポレートスローガンにしています。我々は「ライフプランニング授業」を通じ、これをもっと広めたい、と考えました。当社には、自分のノウハウを開示してみんなで一緒にがんばろう、という雰囲気があります。そんなこともあり、全国規模の勉強会での発表をきっかけに全国のライフプランナーに取り組みが広がっていきました。

 しかし、それぞれのライフプランナーの想いは、正直、いろいろありました。ライフプランナー同士の関係性づくりにしたいというマネージャーのねらい、将来のライフプランナーというリクルーティングに影響するかもしれない、ライフプランニングの実践・体験の場としても活用できるし、セミナー型でライフプランニングを教えるスキームを学ぶ場にもなる。純粋にボランティアだから、という人も。

 中には顧客獲得につなげたいという意見もありました。なかなか接点を持ちにくい学校への突破口になるのでは?と安易に考えた部分もあります。あるいは保護者とつながれるのでは?など。気持ちは否定できませんが、「名刺を配る」というような、本来の目的とは異なることはやめましょう、ということは徹底しました。それでも顧客獲得を主たる目的として、やってみたいという人もいましたが、やっても意味がないということがわかってきて、結果的に、そういう人たちは参加しなくなりました。

 そして、そのうち、消極的な意見も出てきました。「いいことだけど、続けられないのでは?」と。キャリア教育に対して学校のニーズがあって、希望する学校が増えていることは間違いない。が、現場が対応しきれなくなってきていた現状が、実はあったのですね。いちばん大変なのは、授業に行くライフプランナーをライフプランナー自身が仲間に声をかけてまとめていたことでした。会社からせめて資金的な援助を考えてほしい、という声も出てきていました。

 交通費程度の費用負担をすることは、会社としてもできたかもしれません。しかし、お金のために授業に参加するライフプランナーはひとりもいないだろうと信じていました。なので、腹をくくりました。「もしどうしても断らざるをえないときには本社に言ってくれ。私が断りにいく。」と。「広める」ということだけではなく「断る役割」も担うよ、と現場に言うことにしたのです。すると、「本社もそこまで本気か」と現場にも伝わるようになりました。

 授業を支えているのは、やはりライフプランナーです。彼らはサラリーマンではなく、完全業績型報酬。しかし、人と関わってお役に立たいたいという意識が強く、授業には無報酬ボランティアで参加しています。なぜそうしてでも参加するのかというと、やはり子どもたちにライフプランニングの素晴らしさを伝えたいという気持ちと、当社のライフプランナーが、自分たちの使命を自ら宣言した「ライフプランナー憲章」にも表現されているように、プロとしての自意識・志が支えているのではないかと思っています。

ライフプランナーが気持ちよく参加できるようにしたい。

 では、授業を気持ちよくやってもらえるようにするためにはどうするのか。活動として「第2幕」に入ってきたところだととらえています。このひとつのポイントがキャリア教育アワードでした。年間実施校数100校という数は相当な数だろうと思っていました。しかし、確証はない。ライフプランナーは、いいことだからやっている。でもしんどい想いもしている。社会的にも価値のあることをやっているということを証明したいと思いました。結果として優秀賞をいただくことができ、社会的な評価をライフプランナーにも伝えることができました。その他の広がりとしては、「社会起業大学ソーシャルビジネスグランプリ」でのプレゼンをさせていただく予定ですし、企業連携の取り組み(My Future Campus・キャリア大学)や、文部科学省のポータルサイトへの掲載・仙台や横浜でのキャリア教育のイベントの機会をいただくなど、対外的な評価をいただくこともできました。

 とはいえ、ライフプランナーの負担感は依然として残っています。ライフプランニング授業は社会貢献・CSRです。そこに関わる人たちそれぞれに、メリットを感じることが大事だと思っています。しかし、ここでひとり苦しい想いをしていたのがライフプランナーでした。すべてをwin-winにするためには、ライフプランナーがいま以上に気持ちよく授業ができるようにしたい、というところがポイントだったのです。そこで、ボランティアというスタンスは変わらないが、可能な範囲で実施してもらったらいいのだ、ということとを明示するとともに、授業の価値をもっともっと知ってもらうことへの注力を始めました。

 そのひとつが「インターナルブランディング」。 社内に対する意識の浸透です。もともとあったイントラネットに、ライフプランニング授業の情報をとりまとめるようにしました。経営層からのメッセージも掲載し、各支社の実践事例をヨコ展開しています。いまは、授業をやるとなると、ライフプランナーは必ずこのサイトに来て情報を得ています。できる限り定期的にリニューアルをして、このサイトから目をそらさせない工夫も心がけています。

 もうひとつは、授業の実施方法の多様化を考えています。大人数のライフプランナーがいちどに動くことは、同時にその日の営業活動を止めてしまうことにもなります。それが重なるとネガティブな気持ちもうまれやすくなります。そこで、限られた講師数でも可能な大教室形式での実施も今年から始めてみました。ただし、教育効果が落ちてしまうようでは意味がない。一方的な授業にならないよう、画面を二つ使うなどの工夫をいろいろと行っています。先生や生徒の感想からも、これまでとほぼ遜色のないの効果が出せるという感触は得られています。

 また、子どもたちにとってのキャリア教育は、一回の授業で終わるわけではありません。もちろん、我々だけでできることではありませんが、子どもたちにもっと継続的に「ライフプランニング」をテーマに提供できる価値はないのかをいま探りはじめています。事前授業も大事だが、事後になにができるかが、これからの課題です。

企業価値を高めるための「企業の“キャリア教育力”」とは。

当社が、コーポレートスローガン「ライフプランナーバリュー」において目指しているのは「本業(生命保険)を通じての社会貢献」です。決して、キャリア教育を通じての社会貢献ではありません。ここはすごく大事なことだと思っています。それでもなぜキャリア教育を行うかというのは、本業を補完する手段として魅力があるからです。ブランディング、営業所を超えた連携・勉強会などのチームビルデング、営業スキルアップ、信頼関係に基づく人的ネットワーク構築を通して自然にお客様ができるというナチュラルなマーケティングの可能性もあります。あとは、推進する部署の思い入れの強いも重要なファクターと考えています。

 あらためて文部科学省の定義するキャリア教育について確認してみて考えてみたのが、「ライフプランニング」と「キャリア教育」の類似点。これは「計画通りにいかないこと」だと思っています。ライフプランニングも計画は立てるがそれどおりにはならない。でも立てた方がいい。立てることによって目標ができたり行動ができたり。ここが、当社に提供できる資源だと思います。

 企業にはいろいろな資源・部署がありますね。その中で何を教育資源とするかは、その会社の「決め」でいいんじゃないかなと思っています。もし企業の「キャリア教育力」という概念があるとすれば・・・「企業のもつ事業要素をキャリア教育資源として活用し、学校教育において子どもたちのキャリア発達(能力と態度)に寄与しながら、結果的に企業価値を向上させる力」ではないかと考えています。

それはどう生まれるか、というと、経営陣の理解度も必要なのですが、担当戦略性、要するに、担当者の熱意や自分の会社の価値をどうしたら教育効果につなげられるかを考え、それを引っ張りだす力・社内に発信する力・人を巻き込む力・どうやって企業価値をあげるかというロードマップなど・・・担当者がそういった視点でモノを考え、「やってみる」ということが、いちばん大事なのではないかと考えています。

(2013年7月24日 ソニー生命保険株式会社 濱崎祐一さん より)

ディスカッション

 今回のディスカッションは、ソニー生命さんの取り組み事例の分析を行ってみました。「フレーム仮説」のそれぞれの視点からみたときに、どんなところに強みがあるのか意見交換を行いました。

参加されたみなさんより

「キャリアプランニングということばは、子どもにとってうまれて何回も接することばではないと思うので、その重みを感じました。学校の現場・現状を知りたい。」(エックスデザイン(株) 鄭さん)

「キャリア教育についての考え方・授業プログラムのあり方、人材の活用についての考え方が少し変わった。」

・いろいろな角度からの発見があった。かっこいい大人の背中を見せようと思った。(ソニー生命 平館さん)

「とくに社内でのライフプランニング授業の受け止められ方の変遷がためになりました。私共の授業はそのように社内の人間を巻き込むかが課題なので参考にさせていただきます。」(ハーゲンダッツ 澤村さん)

「改めて他社さんの事例について意見を出し合うと視点が増えて大変勉強になりました。」(デンタルプロ(株)河合さん)

「本業の強みを活かしてキャリア教育を行える点。今後は自身に対してもその視点で考えてみたい。」(卸売業 S.Sさん)

「運営側のよりリアルな意見がうかがえて、大変参考になりました。子どもへ与える価値ももちろんですが、やはり企業にとっての価値=社員のモチベーションUP、働く意義に立ち返るということが大きいと感じました。」(広告業 R.Yさん)

「企業で教育支援を行うために、どうすればいいか具体的にわかりました。」

「企業の方がボランティアでなぜこれだけ教育に関わっていただけるのか、素朴な疑問があったのですが、企業側からの視点をうかがえたので、非常に興味深かったです。」

「働く姿が子どもたちに刺激を与えるということ」((株)リクルートライフスタイル 木下さん)

「ソニー生命さんの強みを考える中で、自社の強み・弱み・市場を俯瞰して考えることができた。」

「やはり担当の熱意ですね。」

「現場の先生が”かっこいい大人”を生徒にみせてあげることがいちばん成長につながるという言葉がいちばん印象深かった。現場の先生の声、企業(塾・教材会社)の声もきいてみたい。」(旅行会社H.Kさん)

「社内の巻き込み、可視化、継続化などを実現されており、素晴らしく感じました。」(小売業 森田さん)