第3回研究会開催レポート(2013/9/17)

2013年9月17日、ちよだプラットフォームスクエアにて、第3回研究会を開催しました。

(参加者数16名。台風明けの月曜日は急な欠席も多く・・・次回はぜひいらしてくださいね!)   

 

 

話題提供

今回は「産業界がなぜキャリア教育に取り組むのか」をテーマに、経済産業省経済産業政策局産業人材政策室 高月理紗さんにお話いただきました。「高校生や大学生のころ、まじめに勉強をしつつも、一方でなぜこんなに勉強しなければいけないのかという疑問を持っていた」という高月さん。日本の産業界が抱える課題と若者の抱える課題、そこから経済産業省がどのような取り組みを行っているのかを語っていただき、キャリア教育アワードで求められる点、「キャリア教育のグッドプラクティスとは何か」についてもお聞きしました。    

日本の産業界の課題〜キャリア教育が求められる背景〜

 まず、なぜ経済産業省の中に産業人材政策室があるのかというところからご紹介します。経済産業省のミッションは、我が国の経済活力の向上。日本が経済成長を続けて行くための政策を行うところです。産業人材政策室が担うのは。労働の質・量の向上、労働市場の機能の向上、というふたつの機能です。今回のテーマは、労働の質・量の向上の領域。日本経済の将来を担う若者の育成は非常に重要な視点の1つであることから、経済産業省として若者育成に取り組んでいます。

 背景として、我が国産業界の課題についてみてみます。日本の国際社会における経済的な地位がどうなっているかというと、ひとりあたりGDPランキング、国際競争力・・・いずれも下がってきている厳しい状況にあります。しかし、日本の技術は世界ではかなり評価されているのです。要するに、技術で勝ってもビジネスで勝てない現状がある。また、日本の市場規模について、かつてはそれなりの規模があり、国内で成長が見込めました。しかし、今後は新興国の市場を視野に入れるなど、グローバル化を後押しする人材が求められています。しかし求める人材が足りていないという現状。もうひとつ大きな柱となるのが、イノベーション。売れ筋商品のヒット期間というデータを見ると、1970年代が5年越しのヒット商品が60%くらいあったにも関わらず、2000年代にはわずか5.6%と10分の1に減っています。ヒット商品が出ても、常に次の新しい商品を開発していかないといけないというむずかしい状況におかれていると言えます。    

若者の抱える課題

 では、若年層の課題について。企業に聞いてみると、仕事の質の変化、高度な仕事を、最初からやらないといけない状況になっていることが指摘されています。それに対して、生徒・学生の職業意識はどうなっているかというと、本来であれば、就業時期が近づくほど目標を持ってほしいところなのですが、中学・高校・大学と進むにつれ、目標がなくなっていくという調査結果も出ています。にもかかわらず、大学の進学率は上昇傾向。目標がみえないまま大学に進学しているのです。では、大学では何を勉強しているのか。国際比較で見ても、日本の場合は「学習内容と将来の関係づけ」を考えていない傾向が見られます。そうした大学生活を過ごした結果、企業側から見ると「最近の大学生は質が低くなった」という評価が増えてきています。目標が見えないまま勉強してきている結果、望ましいレベルまで成長できていない可能性があるのです。

 若者を取り巻く環境として、三世代世帯の減少の結果、いろいろな世代の人と会話する機会が失われている傾向があります。また、デジタル化の進展。TVやビデオを見る時間が、46カ国中11番目に見る時間が多いというデータも出ています。メールを利用する数も多い。ここから考えられることは、対面で人と会話をする機会が減っているのではないかということです。実際に若者にコミュニケーションに関する意識を聞いてみると、パソコンで文書を作る、インターネットで情報収集することなどは得意だが、「自分の意見を人に説明すること」や「よく知らない人と会話をすること」が苦手であるという声が聞かれます。様々なコミュニケーションの機会に恵まれていないまま社会に出て行っているのではないかということが考えられます。

 この部分は、企業側からみた「学生の足りていない能力」について、学生の意識との乖離がみられます。「社会で求められる能力は?」と問われると、学生はビジネスマナー・語学力・パソコンスキル・・・などをあげるのですが、実際に企業側からみると、それらは就職してから身につければよいことで、それよりも、粘り強さ、チームワーク、主体性、コミュニケーションといった能力を身につけてほしいと考えている。このギャップを、学生にも伝えていかないといけないという問題意識もあります。

 さらに、産業界の課題としてグローバル人材の育成があげられますが、一方で若者のグローバル意識に関しては、「海外で働きたくない」という学生が多くなってきています。とくに先進国では働いてもいいが、途上国・新興国では働きたくないという意識もみられます。

 最後に、学生の就職に対しての意識、また就職した後の問題についても見てみたいと思います。求人倍率を見ると、大企業0.65に対して、中小企業は3.35。「若者が就職できないこと」が問題であると言われていますが、実際は採用したいと考えている中小企業が多いにも関わらず、学生の目がそちらにいっていないという現状もあるのです。また、就職してから定着しているかというと3年以内辞めていく若者が多い。なぜ辞めてしまうのかというと、「満足のいく仕事内容でなかったから」という仕事内容に関する不満が原因だと言う調査も出ています。「仕事内容をよく知った上で就職を考えるしくみ」も求められているのです。    

文部科学省・厚生労働省・経済産業省の三省連携によるキャリア教育

 こうした若者の課題・産業界の課題をうまく埋めていくため、経済産業省としてキャリア教育に取り組んでいます。よく「文部科学省・厚生労働省の取り組みとどこが違うのか」と聞かれることがあります。文部科学省・厚生労働省とも、協働して表彰制度やシンポジウムを行うなどしており、めざしているところは変わらないと考えています。ただし、キャリア教育を推進する立場が少しずつ異なり、それぞれが違う役割を担っています。文部科学省は学校教育の中のキャリア教育を推進する取り組み。厚生労働省はキャリアコンサルタントの育成やキャリアコンサルタントの学校現場での活用など。経済産業省は産業界による教育支援のグッドプラクティスを広げること。

 経済産業省では、平成17年度からキャリア教育の取り組みに力を入れてきていますが、キャリア教育に取り組む目標をここで再確認しておきたいと思います。ひとつめは学習の動機づけによる学力の向上。2つ目がエンプロイアビリティの向上。これは、いわゆる「会社で仕事ができる人」と言われる人の能力を、会社に入る前に身につけさせようというもの。3つ目が若者と企業のミスマッチの解消。大企業志向が強い中で、いかに中小企業の魅力を知ってもらうかも大切な点です。

 大学生になってから必要な取り組み。「エンプロイアビリティの向上」にかかる部分として、大学生向けの取り組みでは「社会人基礎力育成」を行っています。社会に出て仕事ができる人材はどのような能力を持っているかを、企業の人事評価の中のコンピテンシーを洗い出した結果が、3つの能力と12の要素に集約されています。3つの能力とは、前に踏み出す力・考え抜く力・チームで働く力。こうした社会人基礎力をどうやってのばすか、というと、PBLproject based learning)と言われる課題解決型の授業で育成していくことができると考えています。インターンシップの実施の際も、企業からお題を出してもらい、大学の先生が見守りながら、学生が課題解決を行う。課題解決を行う中で、自分の能力を自己評価して、育成目標を立てて・・・の繰り返しを通して社会人基礎力の育成ができるのではないかと考えています。

 キャリア教育の推進には産業界と学校の連携は非常に重要ですが、とはいえ、突然「連携せよ」というのはむずかしいことです。そこで経済産業省では、橋渡しとなるキャリア教育コーディネーターを育成する取り組みを行ってきました。「キャリア教育ガイドブック」では、その過程でどんな取り組みがされてきたかをまとめて発信しており、その後、キャリア教育のグッドプラクティスを広く知ってもらおうというものとして、キャリア教育アワードを始めました。経済界のキャリア教育の取り組みを表彰する制度です。

キャリア教育の”グッドプラクティス”とは?〜キャリア教育アワードで大切なこと〜

 昨年度のキャリア教育アワードの受賞企業を事例にしながら、どういったものが「グッドプラクティスなのか」といった点をご紹介します。審査の観点は、継続性、普及性、汎用性、企画性、キャリア教育としての教育効果という5つ。学校側には「継続的な支援」へのニーズがありますので、企業にも継続性が求められることになります。継続にあたってよく課題となるのが、特定の担当者への属人的な依存の部分。担当者がいなくなると取り組みがなくなってしまうのでは困ります。組織としてその取り組みが行われているかという点が、継続性の審査基準として大切なポイントになります。普及性については、できるだけ全国の多くの学校にキャリア教育の機会を提供できるかという点。汎用性という観点では、学校の様々なニーズにあわせた取り組みができるしくみになっているかどうかという点が大切です。企画性と教育効果がいちばん大切なポイントですが、ここは事例でご紹介したいと思います。

 まずは、昨年のキャリア教育アワードで大賞を受賞した「練馬区・練馬アニメーション協議会」。練馬区の地場産業であるアニメ産業を活用し、区内のアニメ関連事業者からゲスト講師を派遣して、子供たちに地域産業に対する理解を深めてもらうという取り組み。プログラムのいちばんのポイントは、アニメの制作体験だけでなく、事前学習・事後学習が入っているという点です。事前授業として地域産業の理解の部分は教員が授業を行い、アニメ制作体験部分はゲスト講師による授業と教員による指導、制作途中でのプロのアニメーターからアドバイス・・・と、教員とゲスト講師が役割分担をしながら授業することで、イベントごとではなく、子供の記憶に残るまでプログラム化されているという点が評価されました。企画性・教育効果というところでは、こうしたプログラムの工夫があると言えます。地域産業で働く人の「すごさ」「かっこよさ」が子供に伝わることも価値ではないかと感じています。私たちも子供の頃、スポーツ選手などに「かっこいい」と憧れを感じたと思いますが、目につくわかりやすい職業だけでなく、子供が知らなかった職業についても「すごい」「かっこいい」と感じることが、将来を考えるきっかけにつながるのではないでしょうか。また、普及のしくみとして、教員向けのティーチャーズガイドがあることや、教員向けの模擬授業の実施、学校によって使える時間が違う現状にあわせてプログラムのカスタマイズが行われていること、練馬区主催のアニメイベントで作品発表を行うことで地域社会に知ってもらう機会を作っていることなど、様々な工夫がされています。

 次にシャープの事例(第3回キャリア教育アワードより)。障がいのある子供たちに向けたキャリア教育。障がい者雇用の促進というのは企業の課題のひとつです。こうした視点のキャリア教育支援も必要であるという点が評価されました。中小企業の例としては、ケミカル山本(第3回キャリア教育アワードより)。いちばんのポイントは教科学習との連動ができているという点です。また、プログラムを作るにあたって、教育委員会と一緒に検討するなど、学校で習ったものが生活の中でどう役立っているかを、企業の実験プログラムの中で勉強してもらうものになっています。学校外プログラムではありますが、学校ではなかなか用意できない実験器具を企業が提供していることや、4−5人につき1人指導する社員がついているということで、子供たちからの評価も非常に高いです。

 いろいろな教育支援の取り組み・度合いがあると思います。ですが、大切なのは、まず「あこがれ」を持ってもらうこと、職業の魅力を伝えることではないでしょうか。そこからさらに進めるのであれば、教科学習との連動を意識する。子供たちの日々の学習の中で、キャリア教育との関係がわかることで、定着が図れることをめざしたいと考えています。

 ※第3回キャリア教育アワードの事例については下記でご覧いただけます。

  http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/career-education/h24sympo.html

キャリア教育の課題と今後の方向性について

 経済産業省では、平成24年度、小中高大それぞれに「どんな目標を持ってキャリア教育に取り組んでいるか」というアンケートを行いました。同じ項目は同時に企業にもアンケートを行っており、自社に入社した社員の足りている点・足りていない点を評価してもらっています。

 見ていただきたいのは、学校で「取り組んでいる」と回答されている項目については、企業からも「できている」と評価されているが、「他人にはたらきかけ巻き込む」など、学校であまり意識されていない点については、やはり企業でもできていないと評価されている点です。ここからわかることは、学校の教員の指導力はあるが、学校で意識されていないことは実現されないので、企業側から、何が必要かをきちんと伝えていく必要があるということです。

 また、学校・教員、企業、それぞれの立場からの課題もあります。特にせっかくの職場体験がイベント化していることが挙げられます。事前学習・事後学習をして、日々の学習の中に定着させていくことが必要です。そのためには、企業と学校が事前に教育目標をすりあわせられることが重要です。企業側でも、事前の準備・事後活動を学校と一緒に行ったケースの方が、企業側でも「授業がうまくいった」という感想が出てきています。

 今後、職場体験活動や教育支援を行う上で、プログラムを作っていく際のひとつのモデルとして、①目標を設定すること ②その目標に対してチャレンジをする ③その過程で足りないことをふりかえり、のばして行くという努力をする。この先の取り組むべき課題を言葉にしてまとめる、というしくみも必要だと思います。このしくみは、企業の人事制度でも多く実践されているものです。企業が第三者的視点でフィードバック・アドバイスを行うことで、子供たちにも緊張感が生まれ、ふだん先生が伝えていることの意味がわかるなどの気づきが生まれる点も大きな価値です。

 今後、産学協働をいかに進められるかが、ますます重要になってきます。産業界をしょって立つ若者をたくさん育成していくことが我々の使命なのです。(2013年9月17日 経済産業省 高月さんより)

ディスカッション

今回のディスカッションは「まな板の上の鯉」を募集。実施されているプログラム・取り組みを事例にし、参加者の皆さん同士で「どんなアピールポイントがあるのか」「どんなところがすごいのか」を発掘していきました。「まな板の上の鯉」に名乗りをあげてくださった勇者は3名。グループのメンバーが、取り組みについて根掘り葉掘り質問。ここでは、その結果として各グループから発表された「この取り組みのここがすごい!アピールポイント」をご紹介します。

グループ①ハーゲンダッツ(澤村さん)の取り組みについて

http://www.haagen-dazs.co.jp/company/csr/ice-cream-school.html

【ここがすごい!アピールポイント】

●ハーゲンダッツというみんなが知っているものを題材とすることができる。

グリーンティーアイスクリームを例にとり、一つの商品を生み出すためにどれだけ手間がかかっているのかなど、商品開発の背景に触れることができる。

●2−3分とはいえ、澤村さんご自身がなぜハーゲンダッツに入ったかという話をしていること。

 働く人の話を聴くことができることは非常に効果が高いと思う。

グループ②JTB(高岡さん)の取り組みについて

高岡さんからは、働く大人へのインタビューとその人に焦点をあてたポスター製作を通して、働くことや、やりがいについて考えるコミュニケーションプログラムの紹介がありました。

【ここがすごい!アピールポイント】

●旅行という非日常の中で、地域を支える方々に出会い、働くことについて学べる。

●普段接することのない、働く大人と話す機会が持てる。

●大人も、インタビューされることを通して仕事をふりかえり、評価され、形に残るという喜びがある。

●はじめて出会う方から仕事に対する姿勢に触れることで、社会の経済活動への関連性がわかる。

●子供にとっても学校にとっても企業にとっても取材された大人にとってもWin-Winの関係ができている。

●継続性があること、価値が蓄積される。

●いろいろな形でアレンジできる柔軟性がある。

●継続的に地域・学校・職場との関係性を維持して行ける可能性がある。(ポスターコンクールなどのイベントに発展できる可能性も!)

グループ③日本財団(田代さん)の取り組みについて

https://facebook.com/gakupro

 

【ここがすごい!アピールポイント】

●ニュートラルな立場でいろいろな人をつなげ、学校に提供していくことができる価値がある。

●なかなかイメージしにくいNPONGOといった団体が何をしているのかを伝えることができる。

●社会貢献が具現化されにくい性質があるが、こうしたプログラムを通して具現化できるというメリットがある。

●財団法人としてのマーケティング活動ができ、次の方向性を得ることができそう。

●テーマ設定がしにくい一方で、大人が思っているよりも子供たちは「できる」ことに気づく機会になっている。

●先生自身が実施できるように工夫している点は、その体制が先生への刺激になり、次のサイクルにつながる可能性がありそう。

参加された皆さんより

「他社の取り組みをご担当者からうかがえて、ディスカッションまでできてよかった。企業側のハードルをいかにさげるか、負担が少なく手軽にはじめられることが重要だと思った。」(T.Oさん/生命保険会社)

「参加型で良いメンバーでディスカッションできた。」(K.Sさん)

「キャリア教育に取り組んでいる企業さんを実際に目と耳で触れることができ、大変貴重な経験でした。有意義な議論ができたと思います。」

「大学生に接していると、もっと早い時期から大人と接したり社会や企業理解する機会を持たねばと感じます。」

「”キャリア教育”とひとことにいっても、その方法、スタイルは関わる企業や団体によって全く異なるものであることに改めて気づき、その可能性の大きさを感じました。」

「経産省のデータ等を拝見し、現状や課題、方向性が見られたこともこの研究会の意義だと思います。産学官の直接的情報交換の場は非常に少ないので、こういった場で情報交換・共有できるとありがたいです。」(久保田さん/薬品メーカー広告宣伝)

「グループワークで深い話ができました。積極的に関わることができて、自分自身としても、いろいろな疑問がとけてきたような気がします。」

「実施されている方の生のお話は、大変参考になりました。」

 

次回もお楽しみに!